大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 平成2年(ネ)245号 判決 1992年2月25日

控訴人

日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

石月昭二

控訴人

石井幸孝

控訴人

藤井定

控訴人

眞子誠

右控訴人ら訴訟代理人弁護士

杉田邦彦

村田利雄

被控訴人

浦川和彦

被控訴人

小池義浩

被控訴人

南里隆芳

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士

河西龍太郎

本多俊之

宮原貞喜

中村健一

主文

一  原判決中、主文三項を次のとおり変更する。

1  控訴人日本国有鉄道清算事業団及び同石井幸孝は、各自被控訴人らに対し、各金三〇万円及びこれに対する昭和六一年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人らの控訴人藤井定及び同眞子誠に対する請求及び控訴人日本国有鉄道清算事業団及び同石井幸孝に対するその余の請求をいずれも棄却する。

二  控訴人日本国有鉄道清算事業団のその余の控訴を棄却する。

三  控訴費用中、被控訴人らと控訴人藤井定及び同眞子誠との間に生じたものは、第一、二審を通じ、すべて被控訴人らの負担とし、被控訴人らと控訴人日本国有鉄道清算事業団及び同石井幸孝との間に生じたものは第一、二審を通じこれを三分し、その二を同控訴人らの、その余を被控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人らは、「原判決を取り消す。被控訴人らの控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは、「本件控訴をいずれも棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者の主張は、次のとおり加え、改めるほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決三枚目表六行目(本誌五六一号<以下同じ>44頁2段5~6行目)、同四枚目表七行目(44頁3段14行目)、同末行(44頁3段23行目)、同枚目裏四行目(44頁3段31行目)の各「真子」を「眞子」と、同三枚目表六行目の「伊万里保線支区」(44頁2段6~7行目)を「伊万里保線区伊万里支区」と改める。

2  同三枚目裏三行目末尾(44頁2段20行目)の次に改行の上、「(4)国鉄は、昭和六二年四月一日、それまで行っていた事業等のうち、これを旅客会社等法人の事業として運営することが、適切、適当と認められるものにつき、当該法人に事業等の承継をさせ、その事業引継後、承継されない資産債務等の処理につき、日本国有鉄道清算事業団に移行させ、右処理業務を行うことになった(日本国有鉄道改革法一五条、同法附則二項、日本国有鉄道清算事業団一条、同法附則二条)が、本件係争にかかる債務は、その過程で控訴人日本国有鉄道清算事業団に移行した。」を加える。

3  同五枚目表六行目の「(3)」(44頁4段20行目)を「(4)」と、同一〇行目の「4(1)及び(2)記載の」(44頁4段26行目)を「4(1)の事実を否認し、(2)の事実のうち、控訴人石井が国鉄の九州総局長として国鉄総裁の懲戒権を代行するものとされていたことは認め、その余の」と改める。

三  証拠関係は、原審並びに当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  当裁判所の事実認定及びこれに伴う判断は、次のとおり加え、改め、削除するほか、原判決の六枚目表七行目(45頁1段20行目)から同一四枚目裏八行目(47頁1段11行目)までの理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  同六枚目表七行目の「(3)」(45頁1段20行目)を「(4)」と、同一〇行目の「眞子」(45頁1段26行目)、同六枚目表一一行目(45頁1段27行目)、同枚目裏一行目(45頁1段30行目)、同七枚目裏一行目(45頁3段10行目)、同一三枚目裏四行目(47頁2段19行目)、同一四枚目表三行目(47頁3段8行目)の各「真子」といずれも「眞子」と改める。

2  同六枚目表末行の「被告藤井及び被告真子」(45頁1段27行目)を「原審における控訴人眞子並びに原審及び当審における控訴人藤井」と改める。

3  同七枚目裏六行目の「原告らは、」(45頁3段17行目)を「被控訴人らは、原審及び当審(被控訴人浦川のみ)における」と、同九行目の「作業現場に到着し、機械」(45頁3段23行目)を「トラックで作業現場に到着し、トラック上で草刈機を点検した後、黄色のヘルメットを着用して作業始点に向かい、午前九時三五分ころから作業を開始し、まず草刈機」と改める。

4  同八枚目裏四行目の「後藤及び城戸政則の各証言並びに検証の結果」(45頁4段12行目の(証拠略))を「弁論の全趣旨により平成二年六月一四日本件現場を撮影した写真であることが認められる第一三号証の一ないし八、当審証人後藤の証言によって昭和六〇年一〇月六日本件現場を撮影した写真であることが認められる第一五号証の一ないし二九、原審証人城戸政則、原審及び当審証人後藤の各証言、原審及び当審における検証の結果並びに弁論の全趣旨」と改め、同七行目の「二〇日」(45頁4段17行目)の次に「(原審における証拠保全による検証)」を同九行目の「できなかったこと、」(45頁4段21~22行目)の次に「平成二年一〇月一二日(当審における検証)当時は、原判決別紙図面(以下記述の各点についても同じ)上のク点、a点、ケ点からオ点への見通しは悪く、オ点に人が立った場合は見えるが、オ点に人が座った場合は見えず、ヘルメットを着用して座った場合は僅かにヘルメットの上部が見えるにすぎないこと、また、サ点から予めア点に立たせた人物を見ることはできるが、予め立たせる地点の指示をしなければ、立っている地点の判別は困難であること、」を加え、同九枚目表二行目から同三行目にかけての「乙第五号証の一及び二」(45頁4段31行目の(証拠略))から同四行目の「状況について」(46頁1段1行目)までを右乙第一五号証の一二ないし一四、同号証の一七、一八は、本件現場付近の伐採作業が終わった二日後の昭和六〇年一〇月六日に、乙第五号証の一、二はその後残ったススキ等が枯れた翌年二月中旬にいずれも」と、同五行目の「サ点から長浜踏切自体」(46頁1段3行目)を「右いずれの時点においてもサ点から長浜踏切付近の路面」と改め、同九行目の「いたこと」(46頁1段11行目)の次に「、当審における検証時のサ点からア点の見通し状況は、昭和六〇年一〇月六日当時と比較しても視界を妨げる草木の茂みが少なくなっていること」を加え、同一〇行目冒頭(46頁1段13行目)から同枚目裏二行目末尾(46頁1段19行目)までを削除する。

5  同一一枚目表四行目の「長浜踏切付近」(46頁3段16行目)を「少なくとも長浜付近より東山代駅寄り」と改める。

6  同枚目裏六行目の「長浜踏切は見えず、少なくとも」(46頁4段9行目)を「少なくとも長浜踏切の路面及び」と、同一二枚目表三行目の「被告藤井及び被告眞子」(46頁4段23行目)を「原審における控訴人眞子並びに原審及び当審における控訴人藤井」と改める。

7  同一二枚目裏六行目冒頭(47頁1段14行目)から同一三枚目表三行目末尾(47頁1段32行目)までを次のとおり改める。

「前記認定事実によると、控訴人藤井及び同眞子は、もとより懲戒処分権者ではなく、旧国鉄長崎管理部工務課主席ないし伊万里保線区伊万里支区助役としての職務上、控訴人らの前記目撃状況からして被控訴人らが当日の作業区域内にはいなかったと思われる旨を上司に報告したにすぎず、また本件全証拠によっても、同控訴人らが被控訴人らをして懲戒処分を受けさせるため、被控訴人らが右区域内にいたことを知りながら、虚偽の報告をしたとの事実を認めるに足りる証拠もなく、その報告内容が事実と異なることがあっても、前記の本件事実関係のもとにあっては無理からぬとみるのが相当であるから、同控訴人らに不法行為責任を認めることはできない。仮に、前記認定の現場状況等からして同控訴人らの目撃状況ないしそれに基づく判断に落度があったとしても、同控訴人らの報告等を資料として最終的に判断をするのは懲戒権者であり、同控訴人らの権限及び報告の目的からして、同控訴人らが対外的に不法行為責任を負わなければならない理由はない。」

8  同一三枚目表四行目(47頁1段33行目)の次に改行の上、「被控訴人石井が国鉄の九州総局長として国鉄総裁の懲戒権を代行するものとされていたことは当事者間に争いがない。」を加え、同六行目の「原口」(47頁2段1行目の(証拠略))から「証言」(47頁2段1行目の(証拠略))までを「原審証人原口、同東、同藤木、同木下三郎、原審及び当審証人後藤、当審証人高林英昭の各証言並びに弁論の全趣旨」と、同枚目裏末行の「食い違い」(47頁3段1行目)から同一四枚表一行目の「以上」(47頁3段3行目)までを「食い違いがあり、前記認定の現場の状況からして誤認の可能性があることは認識し得たのであるから」と、同二行目の「手落ちなく収集する」(47頁3段5~6行目)を「十分に収集した上で慎重に判断すべき」と、同三行目から同四行目にかけての「のみを信頼して」(47頁3段8行目)を「を過信して」と改める。

9  同六行目の「争いがない。」(47頁3段14行目)の次に「控訴人藤井及び同眞子に被控訴人らに対する不法行為責任が認められない以上、当時の国鉄が民法七一五条による責任を負うことはないが、代表者である国鉄総裁の懲戒処分権を代位行使する控訴人石井の右過失行為についての損害賠償責任を免れないことは言うまでもない。」を加える。

10  同八行目冒頭(47頁3段15行目)から同枚目裏四行目末尾(47頁3段30行目)までを次のとおり、改める。

「前記認定によると、本件懲戒処分は、控訴人石井の過失による事実誤認の違法、無効な処分であり、被控訴人らは右処分によって名誉その他精神的損害を受けたものと認めるのが相当である。

ところで前記認定のほか、成立に争いのない甲第二五号証の一ないし四(原本の存在も)、第二九号証、乙第一六号証、原審における被控訴人浦川本人尋問の結果によって真正に成立したことが認められる甲第二一号証の一、原審及び当審証人後藤の証言、原審における控訴人眞子、被控訴人小池、同南里、原審及び当審における控訴人藤井、被控訴人浦川各本人尋問の結果によると、被控訴人らは、本件当日それぞれ離れた場所で前刈り等の作業をしていたのに、列車通過五分ないし七分前にわざわざ三人揃ってオ点(線路より三メートル南側)の草むらに座って八分ないし九分間退避したというのであるが、当日の作業実績は極めて悪く、控訴人眞子が午前一〇時三〇分時点で明確に作業の形跡を認めることができたのはキ点付近の約一平方メートルだけであったこと、被控訴人らは、当日黄色のヘルメットを着用していたのであるから、作業区域内で立って作業しておれば、控訴人藤井らがセ点、サ点、キ点を移動中にも被控訴人らを目撃できた筈であること、門司鉄道管理局の規定によると、列車退避の場所は、原則として施工基面上とされており、退避の時間については規定はないが、第一列車の場合は事前に長浜踏切の警報機が鳴動し、第二列車の場合は東山代駅を発車する際に警笛を鳴らすことになっていることからすると、被控訴人らの退避方法は、時間的にも、場所的にも相当でなく、作業能率上の配慮を欠くものであったことが認められ、以上の事実に前記認定の現場の草木の繁茂の状況と併せ考えると、控訴人石井において控訴人藤井らの報告を過信して判断を誤った過失もそれほど重大なものともいえず、このほか本件における諸般の事情を考慮すると、被控訴人らの本件懲戒処分によって受けた精神的損害に対する慰謝料は各二〇万円をもって相当と認める。」

二  以上によると、被控訴人らが控訴人事業団に対して本件各懲戒処分の無効確認を求める請求及び被控訴人浦川の控訴人事業団に対する未払賃金請求は原判決が認容した限度で認容すべきであるが、被控訴人らの控訴人藤井、同眞子に対する損害賠償請求は失当として棄却し、控訴人事業団及び同石井に対する損害賠償請求は各三〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和六一年四月二七日から完済に至るまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容し、その余は失当として棄却すべきである。

よって、右と一部異なる原判決主文第三項を変更し、控訴人事業団のその余の控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鎌田泰輝 裁判官 川畑耕平 裁判官 簑田孝行)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例